こんにちは。電源LABO、運営者の「きっちゃん」です。
BLUETTIのポータブル電源を検討しているとき、スペック表や公式サイトで「電力リフト機能」という言葉を目にして、一体どんな機能なのか気になったことはありませんか。
定格出力を超える高出力な家電が使えるといわれても、その仕組みがイメージしづらかったり、無理をして故障しないか不安に感じたりするのは当然のことです。
実はこの機能、魔法のように便利な反面、電圧を下げるという特殊な制御を行っているため、使える家電と使えない家電がはっきりと分かれています。
正しい知識を持たずにパソコンなどの精密機器を繋いでしまうと、故障などのトラブルに繋がるリスクもあるため注意が必要です。
この記事では、これからBLUETTI製品の購入を考えている方や、すでに持っているけれど使い方がよく分からないという方に向けて、電力リフト機能の全貌を徹底的に解説します。
- 電力リフト機能が電圧を下げて家電を動かす物理的な仕組みと制御の裏側
- 定格出力を超えて使える「抵抗負荷」家電と、絶対に使ってはいけない「精密機器」の明確な境界線
- 競合であるEcoFlowのX-Boost機能との具体的な違い、安全思想、そして使い分けのポイント
- 加熱時間が延びるデメリットやバッテリーへの負荷、ファン騒音に関するリアルな実情
解説:BLUETTIの電力リフト機能の仕組みとは
まずは、この機能が一体どのような理屈で動いているのか、電気の難しい話をできるだけ噛み砕いて解説していきます。
カタログの数字だけでは見えてこない「カラクリ」を知ることで、安心して使えるようになりますよ。
定格出力や瞬間最大出力との違い
ポータブル電源のスペック表を見ると、必ず目にするのが「定格出力」「瞬間最大出力」、そして今回のテーマである「電力リフト機能」という3つの言葉です。
これらは一見すると似たような「パワーの指標」に見えますが、その役割と意味合いは全く異なります。
ここを混同してしまうと、ポータブル電源選びで大きな失敗をしてしまうので、まずはこの違いをしっかりと整理しておきましょう。

1. 定格出力(Rated Output)
「無理なく連続して出し続けられるパワーの上限」のことです。
マラソンで例えるなら、「息切れせずに走り続けられるペース」だと思ってください。
例えば定格1000Wのモデルなら、合計1000Wまでの家電なら、バッテリーがなくなるまで何時間でも安定して動かせます。
これはメーカーが保証する正規の運用範囲であり、最も安全で効率の良い使い方です。
2. 瞬間最大出力(Surge Output)
「ほんの一瞬だけなら耐えられる限界のパワー」を指します。
多くの家電、特にモーターを搭載している冷蔵庫や電動工具などは、スイッチを入れた瞬間に「起動電力(突入電流)」と呼ばれる、定格の数倍もの巨大なパワーを必要とします。
この一瞬の衝撃に耐えるために用意されているのが瞬間最大出力です。
ただし、これはあくまで「数秒〜数ミリ秒」の話であり、連続して使えるものではありません。短距離走の全力ダッシュのようなもので、すぐに息切れしてしまいます。
3. 電力リフト機能(Power Lifting Mode)
これらとは全く別のアプローチで実装されているのが、今回の主役である「電力リフト機能」(アプリ上の表記は電力リフトモード)です。
これは、定格出力という「壁」を超えてしまった場合に発動する、言わば「裏技」のようなモードです。
通常、定格1000Wの電源に1200Wのドライヤーを接続すると、インバーターを守るために「過負荷保護回路」が作動し、即座に「プツン」と電気が遮断されます。
これは故障を防ぐための正常な反応です。
しかし、電力リフト機能がONになっている場合、システムは「遮断」するのではなく、「電圧を調整する」という別の判断を下します。
定格出力を超える家電が繋がれたとき、本来ならブレーカーが落ちて止まってしまうところを、電圧(ボルト)を強制的に下げることで電流(アンペア)を抑え込み、擬似的に動かし続ける機能なのです。
3つのパワーの違いまとめ
- 定格出力:
ずっと出し続けられる、本来の実力。(例: 1000W) - 瞬間最大出力:
起動時の一瞬だけ耐えられる、火事場の馬鹿力。(例: 2000W / 数秒間) - 電力リフト機能:
定格を超えた家電を動かすために、電圧を下げて無理やり継続させる制御技術。(例: 1200Wの家電を接続 → 電圧を下げて800Wで動かす)
定格出力・最大出力って何?こちらの記事で詳しく取り上げています。
⇒定格出力と最大出力の違いとは?ポータブル電源選びの失敗を防ぐ
電圧を下げて動作を継続させる原理
「電圧を下げると動く」と言われても、直感的には分かりにくいかもしれません。
「パワーが足りないのに、電圧を下げて大丈夫なの?」と思いますよね。
ここでは、電気の基礎である「オームの法則」を少しだけ借りて、そのメカニズムを紐解いてみましょう。
電気の流れを「水の流れ」に例えると非常に分かりやすくなります。

ポータブル電源のコンセント(通常100V)は、ダムの高い位置から一定の勢いで水を流している状態です。
ここに繋ぐ家電は「ホース」だと考えてください。
消費電力が高い家電(例えば1200Wのドライヤー)は、ものすごく「太いホース」です。
もし、小さなダム(定格600Wのポータブル電源)に、この極太のホース(1200Wのドライヤー)を繋いだらどうなるでしょうか?
水がドバドバと勢いよく流れすぎてしまい、ダムの貯水量が追いつかず、パイプが破裂するか、安全装置が働いて水門が閉じてしまいます。
これが通常の「過負荷で止まる」状態です。
ここで電力リフト機能の出番です。
この機能を持った賢いインバーターは、「あ、太すぎるホースが繋がれた!このままだと水が流れすぎてパンクする!」と瞬時に検知します。
そこで、水門を閉じる(停止する)のではなく、「水の勢い(水圧=電圧)を弱める」という作戦に出ます。
オームの法則での解説(読み飛ばしてもOK)
電気の世界には $I = V / R$ (電流 = 電圧 ÷ 抵抗)という法則があります。
家電の抵抗値($R$)は一定です。
通常は電圧($V$)が100Vで固定なので、抵抗が小さい(高出力な)家電ほど、大量の電流($I$)が流れます。
電力リフト機能は、この式において $V$(電圧)を強制的に下げることで、結果として $I$(電流)を小さくし、インバーターが許容できる限界値(定格電流)の中に収める制御を行っています。
具体的には、本来100Vで供給すべき電圧を、例えば70Vや60Vまで自動的に降下させます。
水圧が下がれば、どんなに太いホースでも流れる水の量(電流量)は減りますよね。
こうすることで、インバーターは「パンクしないギリギリの量」を流し続けることができるのです。
結果として、家電側には本来必要とする100Vのパワーは届きません。
しかし、電気の供給自体は止まらないため、ドライヤーは止まることなく(ただし風は弱く)動き続けます。
これが、電力リフト機能が「定格を超えても止まらない」物理的な正体です。
魔法ではなく、極めて物理的な「電圧調整」によって成り立っているのです。
インバーターって何?こちらの記事で詳しく取り上げています。
⇒インバーターとは?わかりやすく基本と役割を解説
定格を超えても動く抵抗負荷の特性
ここで非常に重要なポイントがあります。
「電圧を下げれば何でも動く」わけではないということです。
むしろ、電圧を下げることで動かせる家電は、実はとても限られています。
電力リフト機能がその真価を発揮できるのは、ズバリ「抵抗負荷(Resistive Load)」と呼ばれる単純な構造の家電だけです。

では、「抵抗負荷」とは一体何でしょうか?
簡単に言えば、電気エネルギーをそのままダイレクトに「熱」や「光」に変換するだけの、シンプルな仕組みの機器のことです。
内部に複雑なコンピューターや、回転数を制御する高度な回路が入っていない、昔ながらの構造を持つ家電たちがこれに当たります。
主な抵抗負荷の家電リスト
- 電気ケトル:
水を沸かすためのヒーター線が入っているだけのもの。 - ヘアドライヤー:
風を送るモーターと、熱を作るニクロム線で構成されているもの(※高級なデジタル制御ドライヤーは除く)。 - 電気ストーブ・ヒーター:
赤熱する管やフィラメントで熱を作るもの。 - トースター・ホットプレート:
食パンや肉を焼くための熱源を持つもの。 - 白熱電球:
フィラメントが光るだけのもの。
なぜ、これらの家電なら電圧が下がっても大丈夫なのでしょうか?
それは、これらが「電圧の強さに応じて、素直に出力が変化する」という特性を持っているからです。
例えば、白熱電球に調光器(コントローラー)を繋いで電圧を下げていくと、電球はパッと消えるのではなく、徐々に暗くなっていきますよね?
電気ストーブも同様に、電圧が下がれば「暖かさが弱くなる」だけで、機能自体が破綻することはありません。
つまり、抵抗負荷の家電は、供給される電力が100%でなくても、60%や70%なりの力で文句を言わずに働き続けてくれる「懐の深い」家電なのです。
注意:デジタル制御家電はNG
同じ「熱を出す家電」でも、マイコン制御で温度を厳密に管理しているファンヒーターや、タッチパネル式の高級ケトルなどは、電圧が一定以下(例えば85V以下など)になると、内蔵されているコンピューターの電源が落ちてしまい、動作が停止することがあります。
電力リフト機能が使えるのは、あくまで「アナログ的で単純な家電」に限られると覚えておきましょう。
このように、電力リフト機能は「インバーター側の制御技術」と「家電側の抵抗負荷という特性」がカチッと噛み合ったときに初めて成立する、条件付きの機能なのです。
これを理解せずに何でも繋いでしまうと、後述する故障の原因になります。
高出力なドライヤーが使えるメリット
仕組みが分かったところで、この機能が私たちユーザーにとって具体的にどんなメリットをもたらすのか、実際の利用シーンを想像しながら見ていきましょう。
この機能の最大の恩恵は、「小型・中型のポータブル電源でも、自宅で使っている高出力な家電をそのまま持ち出せる」という点に尽きます。
通常、家庭用のヘアドライヤーは1200W〜1500Wの消費電力を必要とします。
これを定格出力だけで動かそうとすると、ポータブル電源もそれなりのサイズ(定格1500W以上の大型モデル)を用意しなければなりません。
大型モデルは当然、価格も高く、重量も20kg近くになり、気軽にキャンプに持って行くにはハードルが高いものです。
しかし、電力リフト機能があれば話は別です。
例えば、定格600W程度のコンパクトで持ち運びやすいポータブル電源であっても、電力リフト機能をONにすることで、1200Wのドライヤーを稼働させることができます。

具体的なメリットを感じるシーン
- キャンプでの入浴後:
サイトに電源がなくても、普段家で使っている愛用のドライヤーで髪を乾かせます。
特に冬場のキャンプや、お子様連れのキャンプでは、髪が濡れたまま過ごすのは風邪のもと。
小型電源でドライヤーが使える安心感は絶大です。 - 車中泊での調理:
消費電力が高いトラベル用ではない、一般的な家庭用電気ケトル(1200Wクラス)や、小型のIHクッキングヒーター(※対応機種に限る)を使って、すぐにお湯を沸かしたり簡単な調理ができます。
専用の低出力家電をわざわざ買い揃える必要がなくなります。 - 防災・停電時:
災害時、手元にあるポータブル電源が小型だったとしても、電気ストーブや電気毛布といった暖房器具を(出力は弱まりますが)確実に動かすことができます。
「動かない」と「弱くても動く」の間には、天と地ほどの差があります。
実際の使用感(リアリティ)
もちろん、デメリットもあります。
電圧が下がって600W〜800W程度で動作するため、ドライヤーの風量は「強」設定でも実際には「弱〜中」くらいの風圧になり、温風の温度も少しぬるくなります。
髪を乾かす時間は普段より数分長くかかるでしょう。
それでも、「電源サイトを予約しなくてもドライヤーが使える」「重たい電源を運ばなくて済む」というメリットは、その不便さを補って余りあるものです。
AC180やEB3A等の対応モデル
BLUETTIは、この電力リフト機能を積極的に新機種へ搭載しており、ユーザーの選択肢を広げています。
ここでは、特にこの機能が輝く主要なモデルをピックアップしてご紹介します。
BLUETTI AC180
現在、キャンプ用ポータブル電源の「決定版」とも言われているのがこのAC180です。性能・サイズ・価格のバランスが最も優れています。


- 定格出力:1800W
- 瞬間最大出力:2700W
- 電力リフト出力:最大2700W
- 容量:1152Wh
- 本体重量:約16.0kg
- 公式参考価格:109,800円
- 特徴:
1時間強で満充電になる「高速充電」と、持ち運びやすいハンドル形状が魅力。
1泊2日のキャンプに最適な容量と出力を備えた、失敗のないスタンダードモデルです。
定格だけでも1800Wあるので、ドライヤーや電子レンジは通常モードで余裕で動きます。
さらにリフト機能で2700Wまでカバーできるため、高出力ドライヤーとケトルの同時使用など、定格を超えそうな場面でも止まらずに稼働を続けられます。
BLUETTI AC180T
AC180をベースにしつつ、世界初の「バッテリー着脱式(スワップ)」システムを採用した革新的なモデルです。


- 定格出力:1800W
- 瞬間最大出力:2700W
- 電力リフト出力:最大2700W
- 容量:1433Wh
(716Whバッテリー×2個搭載時) - 本体重量:約26.5kg
- 公式参考価格:198,000円
- 特徴:
最大の特徴は、上部からバッテリーを引き抜ける構造。
バッテリーを1つに減らして軽量化して持ち運ぶなど、運用スタイルの自由度が極めて高いモデルです。
基本出力スペックはAC180と同じですが、容量が約1.2倍に増えています。
電力リフト機能で高負荷家電を動かしながら、バッテリーが切れたら予備バッテリー(別売)とカセットのように交換して使い続ける、といったエンドレスな運用が可能です。
BLUETTI EB3A
こちらは「超小型」のエントリーモデルです。このサイズにリフト機能を搭載したことが革命的でした。


- 定格出力:600W
- 瞬間最大出力:1200W
- 電力リフト出力:最大1200W
- 容量:268Wh
- 本体重量:約4.6kg
- 公式参考価格:32,900円
- 特徴:
片手で持てるコンパクトサイズながらUPS(無停電電源装置)機能を搭載。
アプリ対応や簡易LEDライトなど、防災用のサブ機としても非常に優秀。
定格600Wというのは、実はかなり微妙なラインで、一般的なドライヤーやケトルはほとんど動きません。
しかし、リフト機能で1200Wまでカバーすることで、「スマホ充電用」と割り切られがちな小型電源を、「ドライヤーも使える万能電源」へと進化させました。
ソロキャンプや、防災リュックに入れるサブ電源として最強の選択肢の一つです。
BLUETTI AC200L
大容量モデルのAC200MAXの後継機にあたります。


- 定格出力:2400W
- 瞬間最大出力:6000W
- 電力リフト出力:最大3000W
- 容量:2048Wh
- 本体重量:約28.3kg
- 公式参考価格:269,700円
- 特徴:
拡張バッテリー(B210/B230/B300)による容量増設が可能。
20ms以下の切り替え速度を持つUPS機能や、最大95分の高速充電など、家庭用バックアップ電源としての完成度が非常に高い。
ここまで来ると、家庭にあるほぼ全ての家電(抵抗負荷)が動きます。
3000Wクラスの業務用の投光器やヒーターなど、プロフェッショナルな現場でも活躍できるスペックです。
また、AC200Lは充電速度も劇的に向上しており、高出力で減ったバッテリーを急速に回復できる点も、リフト機能との相性が良いと言えます。
EcoFlowのX-Boostとの違い
ポータブル電源を検討する際、必ずと言っていいほど比較対象になるのがEcoFlow(エコフロー)です。
EcoFlowにも「X-Boost(エックスブースト)」という非常によく似た機能が搭載されています。
もしEcoFlowのX-Boost機能について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
⇒EcoFlow(エコフロー)のX-Boostとは?仕組みとメリット・注意点を解説
「名前が違うだけで中身は一緒でしょ?」と思われるかもしれませんが、結論から言うと技術的な原理(電圧を下げて動かす仕組み)は完全に同じです。

では何が違うのか。それは、メーカーとしての「設計思想(スタンス)」の違いです。
| 項目 | BLUETTI (電力リフト) | EcoFlow (X-Boost) |
|---|---|---|
| 技術的な原理 | 電圧降下による定電力制御 (オームの法則) | 電圧降下による定電力制御 (オームの法則) |
| 初期設定 | OFF(アプリで手動ON) ※安全マージン重視 | ON(デフォルト有効) ※利便性重視 |
| バッテリーの種類 | リン酸鉄リチウムイオン (初期から一貫して採用) | リン酸鉄リチウムイオン (現行モデルは移行完了) |
| アプリの警告 | 「抵抗負荷のみ使用してください」と 厳格に注意書きがある | 幅広い機器への対応を謳うが 仕組みは同じ |
表を見るとわかるように、最も大きな違いは「初期設定」です。
EcoFlowは「利便性」を最優先しており、デフォルトで機能がONになっていることが多いです。
「難しいことは考えずに、繋げばとりあえず動く」というユーザー体験(UX)を重視しています。
一方、BLUETTIは「安全性」を重視し、初期状態ではOFFになっています。
アプリで明示的にONにする手間はありますが、これは「電圧を下げることによる家電へのリスクをユーザーに認識してほしい」というメーカーの慎重な姿勢の表れです。
バッテリーに関しても、以前はBLUETTIの強みでしたが、現在はEcoFlowもリン酸鉄リチウムイオン電池への移行が進んでいるため、ハードウェア的な安全性に大きな差はありません。
つまり、「手軽さのEcoFlow」か、「堅実なBLUETTI」か。機能そのものよりも、運用スタイルの好みで選ぶのが正解と言えるでしょう。
BLUETTIの電力リフト機能の仕組みと注意点
ここまでは「いかに便利か」というポジティブな側面を中心にお話ししてきましたが、ここからは少しトーンを変えて、シビアな現実、つまり「リスクと注意点」について深掘りしていきます。
この機能は万能ではありません。使い方を誤ると、ポータブル電源本体だけでなく、接続した大切な家電を壊してしまう可能性があります。
転ばぬ先の杖として、以下の内容を必ず頭に入れておいてください。
パソコンなど使えない家電の条件
「電圧を下げる」ということは、言い換えれば「質の悪い電気を供給する」ということです。
コンセントから来る綺麗な100Vの電気を前提に設計されている精密機器にとって、電圧が60Vや70Vに低下し、波形が歪んだ電気は「毒」になり得ます。
具体的に、どのような家電がNGなのか、その理由とともに見ていきましょう。

1. パソコン・モニター・ゲーム機(スイッチング電源搭載機器)
デスクトップPCやモニター、PS5などの最新ゲーム機は、内部に「スイッチング電源」という安定化回路を持っています。
これらは「入力電圧が下がっても、必要な電力(ワット数)を維持しようとする」特性(定電力特性)があります。
電力リフト機能が電圧を下げると、PC側の電源ユニットは「電圧が足りない!もっと電流を取り込まなくては!」と必死になり、逆に電流を吸い込もうとします。
特に危険なのがノートパソコンのACアダプターです。
電圧低下に伴って入力電流が激増し、ACアダプター自体が異常発熱してプラスチックの外装が溶けたり、内部回路が焼き切れて発火したりするリスクが非常に高くなります。
「充電できるかも」と安易に繋ぐのは絶対にやめましょう。
2. 冷蔵庫・エアコン・ポンプ(誘導負荷・モーター機器)
モーター(誘導電動機)のパワー(トルク)は、電圧の2乗に比例します。
つまり、電圧が20%下がると、モーターの力は約36%もダウンしてしまいます。
コンプレッサーを回す冷蔵庫やエアコンに低電圧を供給すると、モーターが回ろうとしても回れない「拘束状態」に陥る可能性があります。
この時、モーター内部には通常の数倍の「拘束電流」が流れ続け、コイルが異常発熱し、最終的に焼き切れてしまいます。
「冷えない」どころか「火が出る」リスクがあるため、絶対に使用してはいけません。
3. 電子レンジ・IHクッキングヒーター
これらは一見「熱を出す家電」なので使えそうに見えますが、内部はマイクロ波を出すマグネトロンや、電磁波を作るためのインバーター基板など、高度な電子制御の塊です。
電圧が下がるとエラーが出て停止するか、制御回路が誤作動して故障する可能性が高いです。
ごく一部の安価なIH調理器などで「動いた」という報告も稀にありますが、多くの機種は電圧不足を即座に検知してエラー停止するため、基本的には使えないと考えてください。
大切なIH調理器を故障させるリスクを冒してまで試す価値はありません。
調光機能付きLEDライトにも注意
最近のLED照明は内部に基板が入っています。
電圧が下がると、激しく点滅(フリッカー)したり、寿命が極端に短くなったりすることがあります。
「電球だから大丈夫」と思わず、白熱球以外は避けたほうが無難です。
沸騰時間が長くなるデメリット

電気ケトルでお湯を沸かす際、電力リフト機能を使うと「沸騰までの時間」は確実に延びます。
これは機器の故障ではなく、エネルギー保存の法則に基づく物理的な仕様ですが、実際には計算以上の時間がかかることがあります。
例えば、本来1200Wで動作する電気ケトルを使って、1リットルの水を沸かすとしましょう。
単純計算では、800Wに制限されれば時間は1.5倍になります。
しかし、現実はそう単純ではありません。
ケトルの水温が上がってくると、ケトル表面から空気中へ逃げていく「放熱エネルギー」も大きくなります。
入力パワーが弱いと、この「放熱」に打ち勝つ力が弱いため、沸騰直前の95℃〜98℃付近で温度上昇が極端に遅くなる現象が起きます。
特に冬場の屋外や風のある場所では、放熱ロスがさらに大きくなるため、体感では通常の1.5倍〜2倍近い時間がかかることも珍しくありません。
「なかなかスイッチが切れないな」と思っても、それは故障ではなく「熱の戦い」をしている最中なのです。
対策: 保温性を高める
電力リフト機能を使ってお湯を沸かす際は、なるべく風の当たらない場所で使用したり、ケトルにタオルを巻く(※火傷・火災に注意)などして保温性を高めてあげると、効率よく沸かすことができます。
バッテリー消費や電力効率への影響
「無理やり電圧を下げて動かしているから、バッテリーの減りも早くなるのでは?」
これは非常に鋭い質問です。
結論から申し上げますと、「トータルの消費エネルギー(Wh)自体は理論上大きく変わりませんが、実質の効率は低下し、バッテリー消費は早まる傾向にある」というのが真実です。
理由は大きく2つあります。
- 放熱ロスの増加(上述):
先ほど触れたように、加熱時間が長引けば長引くほど、沸かすために必要な「有効な熱エネルギー」以外の「捨てられる熱エネルギー」が増えます。
結果として、同じ量のお湯を沸かすのにより多くのバッテリー容量を食ってしまいます。 - インバーターの変換効率低下:
ポータブル電源のインバーターは、定格出力の50%〜80%くらいの負荷で動かしている時が最も変換効率が良い(ロスが少ない)ように設計されていることが多いです。
電力リフト機能作動時は、常にインバーターの限界ギリギリ(定格100%付近)で連続駆動させることになります。
さらに、電圧を降下させる制御自体にもわずかながらエネルギーを使います。
高負荷による発熱も増え、冷却ファンがフル回転することで、そのファンの動力分もバッテリーから消費されます。
「600Wのドライヤーを10分使う」のと、「1200Wのドライヤーを電力リフトで600Wに落として10分使う」のでは、後者の方がインバーターへの負担が大きく、システム全体の燃費は悪くなると覚えておいてください。
故障を避けるための正しい使い方
ここまで読んで少し怖くなってしまったかもしれませんが、安心してください。
ルールを守って使えば、これほど頼もしい機能はありません。
大切なポータブル電源と家電を守るために、必ず守ってほしい「鉄の掟」を3つご紹介します。
1. 使えるのは「シンプルに熱くなる家電」だけに限定する
これが最重要です。
電力リフト機能を使用するのは、以下の家電を使う時だけに限定しましょう。
- ヘアドライヤー(マイナスイオン等の機能がないシンプルなもの推奨)
- 電気ケトル(スイッチひとつの単純なもの)
- 電気毛布(アナログコントローラーのもの)
- トースター
これら以外の、「動くかな?どうかな?」と迷うような家電(特にACアダプターを使うものや、ディスプレイがついているもの)には、最初から繋がないことが一番の故障予防策です。
2. 連続使用は短時間に留める
電力リフト機能が作動している間、ポータブル電源の内部ではインバーターがフルパワーで頑張り続けています。
人間で言えば、全力疾走を続けている状態です。
数分〜10分程度のドライヤーや湯沸かしなら問題ありませんが、何時間も続くような暖房器具としての連続使用は、本体の寿命を縮める可能性があります。
長時間の暖房に使いたい場合は、最初から定格出力の範囲内に収まる「省電力ヒーター」を用意するのがベストです。
3. 異音や異臭がしたら即座にストップ
もし家電を繋いでみて、「ブーン」という普段聞かない低い唸り音が家電から聞こえたり、モーターの回転が不安定だったり、焦げ臭いにおいがした場合は、直ちに使用を中止し、コンセントを抜いてください。
それは「使えない家電」であるサインです。無理に使い続けると、家電か電源のどちらか(あるいは両方)が壊れます。
アプリでの設定とオンオフの方法
最後に、実際の使い勝手について触れておきましょう。
BLUETTIの多くのモデル(AC180, AC200L, EB3Aなど)では、スマートフォンアプリを使ってこの機能のON/OFFを切り替えます。
本体のパネル操作だけでは設定できない機種も多いので注意が必要です。
購入直後の初期設定(デフォルト)では、安全のために「OFF(無効)」になっていることがほとんどです。

いざキャンプ場で使おうとした時に「あれ?ドライヤーが動かない!」と焦らないよう、自宅で事前にアプリと連携し、設定を確認しておくことを強くおすすめします。
設定手順の例
- スマホで「BLUETTI」アプリを開き、BluetoothまたはWi-Fiで本体と接続する。
- 右上の「設定(歯車マーク)」をタップする。
- メニューの中から「電力リフトモード」(英語表記では「Power Lifting Mode」)という項目を探す。
- スイッチをONにする。(※この時、「抵抗負荷の機器のみ使用してください」といった警告が表示されるので、確認して「OK」を押す。)
逆に、パソコンやスマホ、カメラのバッテリーなどを充電する際は、念のためにこの機能をOFFに戻しておくのがプロの運用です。
万が一の誤作動や、意図しない電圧降下を防ぐため、「使う時だけON」を徹底してください。
BLUETTIの電力リフト機能の仕組みまとめ
長くなりましたが、BLUETTIの電力リフト機能について、その仕組みからメリット、そして注意すべきリスクまでを解説してきました。
記事の要点まとめ
- 仕組み:
インバーターが電圧(V)を能動的に下げることで、電流(A)を定格内に抑え込み、擬似的に動作を継続させる技術。 - メリット:
AC180やEB3Aなどのコンパクトな電源でも、家庭用の1200W級ドライヤーや電気ケトルが使用可能になる。 - 絶対のルール:
使用できるのは「抵抗負荷(熱機器)」のみ。
パソコン(ACアダプター含む)、冷蔵庫、エアコン、電子レンジなどの精密機器や誘導負荷には絶対に使ってはいけない。 - 競合比較:
EcoFlowのX-Boostと同じ原理だが、BLUETTIは安全マージンを重視し、手動ON設定や長年のリン酸鉄リチウム運用の実績で信頼性を高めている。
「万能ではないけれど、正しく理解して使えば、これほど頼りになる武器はない」。
これが電力リフト機能の正体です。
この機能を使いこなせれば、あなたのポータブル電源はスペック以上の働きをしてくれるはずです。
キャンプで温かいコーヒーを飲んだり、濡れた髪を乾かしたり、あるいは停電時の非常用電源として。
ぜひ、この「電圧の魔法」を安全に活用して、快適なオフグリッドライフを楽しんでくださいね。
※本記事の情報は執筆時点(2025年12月)の公開情報および一般的な電気工学の知識に基づいています。家電製品の仕様はメーカーやモデルによって多岐にわたり、本記事で「使用可能」と分類した機器であっても、個別の制御方式によっては動作しない、あるいは故障の原因となる可能性があります。使用の際は必ず各製品の取扱説明書を確認し、自己責任において運用してください。不安な場合は家電メーカーへご相談ください。
